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10月公演
「心踏音-shintouon-」

とある集落に一人の男がいた。
何をするでもなくぼんやりと

日がな一日を過ごす。
男は、生まれた時から目が見えなかった。

 

幼馴染に連れられて集落を出た男は、

ひょんな出来事から一人の女と出会う。
自警団を束ねる長の娘として

寵愛されている彼女は、

生まれた時から言葉を

発することができなかった。

 

互いの隙間を埋め合うように

交流を深めていく男と女。
女の踏む足は声となって男に届き、

男の耳は目となって女を見つめた。

平穏で、眩しくて、愛おしい日々。
それはこれからも続いていくものだと、

信じていた。

これは男女の物語。
光を奪われた男は、

復讐の修羅となる。

20221115_心踏音_相関図-01.jpg

人々が行き交う街道。 楽しげに酒を呑み交わしたり、 握り飯を喰らったり。 商人や赤子を連れた母、 旅人の姿も見受けられる。

そこへ一人の男がやってくる。 コツコツと杖を鳴らしながら歩く。 どうやら男は目が見えないようだ。

男の対面に、長髪の男性が現れる。 その手には鈴を握り締めている。

男性が鈴をチリンと鳴らす。 途端、盲目の男が杖に仕込んであった刀を抜いて斬りかかる。

斬り結びながら遠のいていく 二人をただただ見守る女性の姿があった。

時は遡って。 とある集落に、盲目の男・盲人が暮らしていた。 畑仕事もままならず、 日がな一日を土手に座って過ごす。

村の衆から役立たずと 邪険に扱われている盲人を 助けに来る幼馴染・笑人。

いつものように蹴散らして、盲人の杖を引く。

大きな鞄を二つ提げた笑人は、 集落を出ようと誘う。 そのまま二人は旅立っていった。

旅の道中。 人通りの多い道を、宛もなく歩く盲人と笑人。

一人の女性・フミが現れる。 何かから逃げているようで、 道行く人に身振り手振りで訴えかけているが、 相手にしてもらえない。

笑人に背を押され歩いていた盲人が、フミと衝突する。 転倒してしまう二人。

慌てて立ち上がらせようとする笑人だったが、 目が見えないはずの盲人がしっかりとフミの方を 見据えている様子に気付く。

フミはまたも身振り手振りで何かを伝えようとする。 しかし目が見えない盲人にはそれを読み取ることができない。

腰に刀を差した二人組がやってきて、フミを連れ去っていく。

訝しがりながらも面倒事はごめんだと 立ち去ろうとする笑人だったが、 盲人が立ち止まったまま動こうとしない。 フミが去った方角をじっと眺めている盲人を見て、 驚く笑人。 盲人の杖を引き、追い掛けていった。

フミを連れ去った誘拐犯のアジトに辿り着く。 コソコソと中の様子を窺う笑人。 身を隠しきれていなかった盲人が誘拐犯に見つかり、 引っ張り出されてしまう。フミを助けようと暴れ出す盲人だったが、 殴り飛ばされてしまう。

そこへ長髪の男性・岳人が現れる。 途端、警戒を強める誘拐犯たち。

フミを人質に取り、刀を捨てるよう指示する。

緊迫した空気の中、盲人が大声を上げながら再度飛び込んでくる。

誘拐犯たちが虚をつかれた隙に、徒手空拳で制圧していく岳人。

岳人の部下たちがアジトに乗り込んできて、誘拐犯を拘束する。

解放され、岳人に飛び付くフミ。 二人は父娘のようである。 娘の無事に安堵する岳人。

そこへ笑人が飛び込んできて、頭を下げる。 貴方の下で働かせてください! 盲人の頭も下げさせ、二人揃って土下座し懇願する。

岳人の部下・鈴人が、無理な頼みだと一蹴し、岳人と共に去ろうとする。

しかしフミが岳人を引き留める。 盲人と笑人に向き直った岳人が、眼前に刀を突きつける。

目が見えない盲人は、目の前に迫った刃には気付かない。

しかし岳人が立てた僅かな物音に反応する。 何かを確認したように立ち上がった岳人は、二人とも連れて来いと鈴人に指示を出した。

岳人が率いる自警団の本拠地。 慌ただしく働く女中たちに、任務のため出立していく男性たち。

洗濯物を干すように指示された盲人が転倒し、床に撒き散らしてしまう。 笑人が時折サポートに入りながら仕事をこなす二人。

自警団としての任務に就くための剣の稽古も始まる。 岳人から指導を受け、みるみる成長していく笑人。 一方盲人は、目が見えないこともあり稽古には参加できずにいた。

稽古の音に聞き耳を立てる盲人。 聴覚で取得した情報を駆使して、見よう見真似で杖を振るってみる。

稽古の音に聞き耳を立てる盲人。 聴覚で取得した情報を駆使して、見よう見真似で杖を振るってみる。

そんな盲人の様子をフミが眺めていた。 フミが立てた物音に反応した盲人が、その方角に会釈をする。

応えようとするフミだったが、声が出ない。フミは生まれた時から言葉を発することができなかった。

返事がないことを不思議に思う盲人。 フミは盲人の手に触れ、自身の喉元へ導く。

そこには大きな傷跡が残っている。

フミの傷跡に触れ、声を発することができないのだと悟る盲人。

どうすればいいのかわからずしゃがみ込む。 その隣に、同じようにフミがしゃがみ込む。

その時、フミの靴音がコツンと鳴る。 その音に反応する盲人。

ハッと、何か閃いた様子のフミが、また靴音を鳴らす。 その音に頷く盲人。 目は見えなくても、耳で聴くことができる。

靴音を鳴らして会話を試みるフミ。 その言葉を聴き取った盲人が、同じように足音で応える。 嬉しそうに笑って、さらに踏む。 盲人も楽しそうに踏み返す。 目が見えない男と、声を発することのできない女。 二人だけの時間が始まった。

いつものようにハタキ仕事をしている盲人。 女中たちと挨拶を交わし、

出立していく男たちを見送る。 動きは不慣れだが、少しずつ、自警団の人間とも交流ができるようになっていく。

洗濯物を干すように指示された盲人を、フミが靴音で物干場まで導く。

二人並んで干し終えると、盲人は杖を握って剣の稽古。 それをフミが見守っている。 笑人がやってきて、素振りの方法を教えたりする。

笑顔でいることが増えていく娘の姿を、岳人が嬉しそうに見つめていた。

素振りをする盲人と、見守るフミ。 そこへチリンと鈴の音が鳴る。 岳人の部下、鈴人がやってくる。

フミに声を掛け、遊びに行こうと誘う。 しかしフミは応じない。 無理矢理連れ出そうとするも、フミがその手を振り払う。

不服そうな鈴人が、盲人に向け鞘に収まったままの剣を向ける。 稽古の相手をしてやろう。 状況が飲み込めないまま、杖を構える盲人。 振り下ろされる杖を避け、その背を強く打ち付ける鈴人。 フミが止めようとするも、鈴人の取り巻きに抑え込まれてしまう。 自分ではどうにもできないと、岳人を呼びに走るフミ。

その間も、鈴人の手は緩まない。 何度も盲人の身体を打ち付け、蹴り飛ばす。

倒れ伏した盲人がヨロヨロと立ち上がり、杖を前に突き出した不思議な構えを取る。 その杖を鞘で払い、鈴人がさらに攻撃を加えようとした瞬間。 鈴人の位置を把握した盲人がその背後に回り込み、杖を振り上げる。 しかしその杖が鈴人に振り下ろされる前に、攻撃のダメージで蹲ってしまう。

目が見えない盲人に背後を取られた。 剣を抜き斬りかかろうとする鈴人だったが、 フミに連れて来られた岳人の姿が目に入り手を止め、去っていく。 盲人の不可思議な構えと、 鈴人を躱した身のこなし。 その一連の動きを、岳人もまた目撃していた。

鈴人との一件により、剣の稽古に参加できるようになった盲人。 岳人の指導を受けているところに、番所から伝令が飛び込んでくる。 大店が盗賊に襲撃されている。 一報を受け、飛び出していく自警団の人々。 岳人が、盲人も連れてくるよう笑人に指示する。

初任務に飛び出していく二人。 フミが靴音でエールを送り、心配そうに見送った。

賊に制圧された大店に、岳人を筆頭とした自警団の人間が飛び込んでいく。 鈴人に笑人、盲人、それぞれが戦いを繰り広げる。

鈴人とその取り巻きのところに、盗賊団の頭領と思しき男が現れる。 圧倒的な力の差を前に、太刀打ちできない鈴人。

そこへ盲人が飛び込んでくる。 頭領の気配を窺いながら立ち向かう。 しかし力の差は歴然で、首を絞められ捕らえられてしまう。

呼吸が止まる中で、盲人の感覚が一層研ぎ澄まされる。 頭領が剣を構える音、踏み込んだ足が軋む音。 頭領の腕を振り払い、息を止めて構える。 あらゆる音を拾って剣を振るい、遂に頭領の身体を拘束する。

鈴人が近寄ってくる。 のし掛かり、押さえつけている盲人の身体もろとも、頭領を斬り捨てようとする。

そこへ笑人が飛び込んでくる。 鈴人の剣を払い、盲人を助け起こす。

同じく駆けつけた岳人が頭領を制圧したところで、盲人は気を失ってしまう。

目を覚ました盲人。 そこには、心配そうに見つめるフミがいた。 自警団の拠点に帰還したらしい。

意識を取り戻した盲人に喜ぶフミ。 心配した、けど無事で良かったと身振り手振りで伝えようとする。 が、盲人とのコミュニケーションはそれではいけないと気付く。 その雰囲気を感じ取って笑う盲人。

戦いの顛末を語る盲人。 フミも興奮した様子でそれを聞く。 そこへ盲人の様子を見に岳人がやってくる。 楽しそうに笑うフミの姿。 話すことができず、俯きがちだった娘が笑っている。 フミの、そして盲人の幸せを嬉しく思う岳人。

抱き合う盲人とフミ。 それを見て、岳人が慌てて飛び出し引き剥がす。 フミは照れ臭そうに去っていく。

岳人は盲人と肩を組み、笑う。 盲人もつられて笑った。

盲人のいる世界。 自分以外の全てが不確かで、薄暗く映る。

いつもの日常。 女中たちと挨拶を交わし、出立していく男たちを見送る。

そして剣の稽古へ。 杖を握りしめ素振りをする。 フミが見守ってくれている。

集中して鍛錬する。 時折フミに話しかけると、靴音で返事がくる。 いつも通りの繰り返し。

突然、大きな靴音が鳴る。 どうしたのかと問い掛けても返事がない。 おかしい。 言い知れぬ不安に襲われる。

杖をつき、フミがいる方へ向かう。 杖に何かが当たる。

恐る恐る手で触れてみる。 靴、足、身体、肩に触れ、動かなくなったフミを見つけた。

フミの亡骸を抱き締める盲人。 何が起こったのかわからない。 こんなに近くにいたのに、何も見えない自分は何もできなかった。 自分への怒りを抑えきれず、目を抉り出そうとする。

鈴の音が鳴り響く。 ハッとする盲人。 そこには鈴を握りしめ立つ岳人がいた。

お前が殺したのか。 杖を振り上げ、暴れるように襲い掛かる盲人。 去っていく岳人。

笑人が盲人に剣を手渡し、岳人を追い掛けるように伝えた。

いくつもの町を旅しながら、鈴の音を追い続ける盲人。 憔悴した様子でふらふら歩き、鈴の音だけを頼りに斬りかかる。

岳人と交戦し、逃げられ、ボロボロになりながらも追い掛ける。 笑人はずっと盲人の隣にいた。

岳人は部下を連れて盲人に迫る。 それら全てを斬り捨てながら岳人を追いかけていく。

盲人に迫った剣を笑人が受ける。 笑人によって生まれた隙。

その一瞬の隙を突いて、盲人が岳人の首を斬り裂いた。

鈴の音が止んだ。 遂にフミの仇を討った。 しかし盲人の耳に信じられない音が届く。

あの鈴の音が再び鳴り始める。 何事もなかったように立ち上がった岳人が去っていく。

その音を追って、盲人も立ち上がる。 何も映していないはずの瞳には、狂気が宿っていた。

鈴の音を追い、交戦し、逃げられる。 その繰り返しの中で盲人は生きていた。 何度も斬り結び合う二人。 そして最後の戦いの場へと辿り着く。

盲人を待ち受ける岳人。 雇い上げた取り巻きたちが一斉に斬り掛かる。 それらを躱し、床を這い手で触れながら地形を把握していく盲人。 全ての地形を理解すると、ゆっくりと剣を抜いた。

取り巻きたちを斬り捨てながら、岳人に迫る盲人。 傷付きながらも決して止まることなく刀を振るう。

最後に残された岳人との一騎討ち。 鋭さを増す盲人の太刀筋に、防戦を強いられる岳人。 そして遂に盲人の刀が岳人に届く。 大量の血を流しながら立つ岳人。

止めを刺そうとその身体に触れた時、何か違和感があることに気付く。 岳人がゆっくりと鈴を掲げ、鳴らす。 盲人が見る景色が変化していく。 そこには岳人ではなく、笑人が、鈴を掲げて立っていた。

ここで物語は少し巻き戻る。

剣の稽古をする盲人。 フミが見守ってくれている。

そこへ鈴人がやってくる。 鈴の音が鳴らないよう、音を殺している。

フミが鈴人を追い払おうとする。 しかし鈴人の取り巻きが盲人に刀を向ける。 動けなくなってしまうフミ。 鈴人はフミに、普段通りに会話を続けるよう指示する。

刀を手に、盲人に迫る鈴人。 お前さえいなければ。 そこへフミが近付いてくる。 慌てて鈴人が刀を向けるが、気にせず歩み寄ってくる。 その目には覚悟が宿っていた。

盲人に向け、最後のメッセージを踏む。 一際大きな靴音に反応する盲人。 鈴人は剣を振り上げ、フミを斬り捨てた。

倒れるフミ。 そこへ岳人が現れる。 変わり果てた姿の娘を見て呆然と立ち尽くす。 が、その表情がみるみるうちに怒りに包まれていく。

鈴人とその取り巻きたちを全て斬り殺し、フミを抱き締める。

杖をつき、近付いてくる盲人が目に入る。

フミの亡骸を抱き、自分の目を抉り出そうとする盲人。 娘の愛した人間を死なせてしまっていいのか。 意を決した岳人は、鈴人の鈴を拾い上げ、鳴らす。

俺がお前の仇だ。 生きて、追いかけ続けろ。

そこへ笑人がやってくる。 惨状を見て、岳人に問い掛けようとする。 岳人は笑人に目配せをし、去っていく。

全てを察した笑人は、盲人に駆け寄り剣を握らせる。 仇を討て。立って追い掛けろ! フラフラと立ち上がり、去っていく盲人。 覚悟を決めた笑人がその背を追いかけた。 そしてその全てを、フミの魂が見つめていた。

いくつもの町を旅しながら、鈴の音を追い続ける盲人。 憔悴した様子でふらふら歩き、鈴の音だけを頼りに斬りかかる。 二人の戦闘に誰も巻き込まれないように、笑人が必死で通行人を逃す。

岳人と交戦し、逃げられ、ボロボロになりながらも追い掛ける。 笑人はずっと盲人の隣にいた。

岳人の部下が盲人に迫る。 盲人を守るため、咄嗟に部下を斬ってしまう岳人。 その一瞬の隙を突いて、盲人が岳人の首を斬り裂いた。

崩れ落ちる岳人。 駆け寄る笑人に、鈴を託す。 笑人がそれを受け取ったのを確認すると、静かに息を引き取った。

フミの魂が盲人に縋る。 何度も何度も言葉を踏み続けるが、それは盲人には届かない。

鈴の音を鳴らし、戦い、去る。 生かすために斬り合う。 それを何度も繰り返しているうち、笑人は全てを終わらせる決意を固める。

そして最後の戦いの場へと辿り着く。 盲人を待ち受ける笑人。 その隣に、フミが重なり合うように見えた。

雇い上げた取り巻きたちが一斉に斬り掛かる。 それらを躱し、床を這い手で触れながら地形を把握していく盲人。

全ての地形を理解すると、ゆっくりと剣を抜いた。

取り巻きたちを斬り捨てながら、笑人に迫る盲人。 傷付きながらも決して止まることなく刀を振るう。 最後に残された笑人との一騎討ち。 鋭さを増す盲人の太刀筋に、防戦を強いられる笑人。

そして遂に盲人の刀が笑人に届く。

大量の血を流しながら立つ笑人。 その頬に触れた盲人が、真相に気付く。

笑って、盲人に剣を突き立てる笑人。

そして倒れ込み、もう動くことはなかった。

盲人の亡骸を、魂となったフミが抱き締めているように見えた。

広く明るい世界の中を、盲人が歩いていた。 杖はない。目も見えている。

向こうにフミの姿が見える。 喉に傷跡なんてない。

手を伸ばし、抱き合う。 手を取り合った二人は、ずっと歩いていく。

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