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11月公演
「戰御史-ikusaonshi-」

ザッ ザッ ザッ ザッ
地面を蹴り進む音が鳴り響く
列を成した分隊が進軍している姿が見える

ザーッ ザーッ ザーッ ザーッ
降り始めた雨によって地面がぬかるんでいく
雷鳴が轟く音が聞こえる

行軍から一人はぐれた男が
雨風を凌ぐため古びた屋敷へと辿り着く
室内は薄暗く 床に散乱した”何か”が時折 稲光に照らされる
訝しむ男の元に 燭台を手にした男が現れる

ゆらめく蝋燭の炎を挟み 相対する二人の男
男はその男に見覚えがある、ような気がした
男が一本の刀を指差し 導かれるように男が拾い上げる

ザザッ ザザッ ザザッ ザーーーーー
ここで男の意識は途絶えている
混濁する視界の中で 蝋燭の男が笑っているのが見えた

これは戰場の物語
この記憶の主は、果たして

nov-soukanzu.jpg

その中を歩き続ける男が二人。 表助と後助。 同一分隊に属する同僚である。

戦闘の中で、不意に記憶が途絶えることがある。

気を失って目覚めた時には決まって、 敵兵が死屍累々と倒れており、後助が労ってくれるのだった。

行軍の途中、突如大雨が降ってくる。

雨宿りできる場所がないか探してくると、後助が駆け出していく。 表助も一人、辺りを散策する。 遠くに建物が見え、近付いていく。

扉を開け中を覗き込むも、 人の気配がない。 建物の中に入り、雨で濡れた身体を払う。 雷鳴が響き渡る。

表助の背後に、 ろうそくの炎が浮かび上がる。 振り返ると、 燭台を手にした者・ろうそく男が立っている。

ろうそく男は表助に手拭いを渡すと、 食事の用意を始める。 身体を拭い、 ろうそく男の対面に座する表助。 有難く食事に手をつける。 ろうそく男もまた、表助を観察するかのように見つめながら、共に食事を摂る。

そこへ後助がやってくる。 表助がろうそく男に紹介しようと立ち上がるが、後助はそれを意にも介さず、 ろうそく男の食事を食べ始める。 慌てる表助だったが、ろうそく男はまるで動じていない。

腹が満たされた後助はごろんと 横になり眠り始める。 食事の片付けを買って出た表助が戻ってくると、座布団を二枚敷いたろうそく男が待っていた。 対面に座れということだろうか。

向かい合って座る表助とろうそく男。 沈黙に耐えかねた表助が動き出そうとすると、ろうそく男がスッと指を差す。 その先をチラリと見る表助。

しかしそこには何もない。 一体どういうことかと向き直ろうとした瞬間、眼前が光に包まれる。 眩さに思わず眼を瞑り、また開くと、 先程まで何もなかったところに 一本のサーベルが突き刺さっていた。

恐る恐るそのサーベルを手に取る表助。

ろうそく男が表助の刀を奪い斬り掛かってくる。 突然のことに驚きながらも、サーベルで応戦する表助。

何が起きているのかと動揺する表助。 手にしたサーベルから何かが流れ込み、 意識が遠退いていく。

気がつくとそこは、いつかの戰場だった。 行軍の最中にいるようだ。

周りの兵が一人、 また一人と傷付き倒れていく。 表助自身も怪我を負っているらしい。

意識した途端に足取りが重くなっていき、遂に膝をついてしまう。

一人の兵士が駆け寄ってきて助け起こしてくれる。 その兵が手にしている武器が目に留まる。 あのサーベルだ。

銃声が響く。 狙撃されたのは表助だった。 頭を弾が掠めていき、悲鳴を上げる。 敵兵に囲まれる。

サーベルの兵士が表助を 背負いながら戦う。 痛みで意識が朦朧としていく表助。

遂に意識を手放してしまう。

兵士の絶叫で意識を取り戻す。 自分たちを取り囲んでいた敵兵はみな死体となって転がっている。 守ってくれていたサーベルの兵士は、顔の皮を剥がれた状態でのたうち回っている。 いつの間にか合流していたらしい後助がその惨状を見て嗚咽している。 一体何が起こったのか困惑していると、また意識が遠退いていく。

気がつくとまた、 ろうそく男と対峙している。

今の記憶は、このサーベルが見せたものなのか。 手にしていたサーベルを投げ捨てる。 問答無用で斬り掛かってくるろうそく男を躱すも、素手では太刀打ちできない。

咄嗟に武器を拾い上げる表助。 長い柄に、長い刃。 長巻を構えた表助はまた、意識が遠退いていくのを感じた。

気がつくとそこは、 見覚えのない野営地だった。 周囲には何人もの人物がいる。 それが敵なのか味方なのか判別がつかず混乱する表助。 一人の男が心配そうに近寄ってきて、顔を洗って来いと促す。

小川に向かう表助。 水を掬い、手に触れた顔付きが、自身の記憶とは大きく異なることに気付く。

そして、水面に映る自分の顔を見て驚愕する。 これは自分ではない。 表助の精神は、長巻を操る男・野武士の中に入っていた。

何が起きているのかわからず動揺する表助だったが、敵兵による襲撃だと声を掛けられ、応戦態勢に入る。 この野営地にいる人間は皆、 味方兵のようだ。

そこへ敵兵がやってくる。 率いているのは後助だった。 見慣れた顔に安堵し駆け寄ろうとする表助を、野営地の兵たちが押し留める。 そうだった、今の自分は表助ではなく野武士なのだった。

後助の兵と野武士の兵が激突する。

初めて扱う長巻という武器に翻弄される表助だったが、身体が使い方を覚えているようで、次第に難なく戦闘に応じていく。

そこに表助が現れる。 野武士の中に在る意識としての表助は、そこで理解する。 これはかつて自分が戦ったことのある敵兵だ。 どういうわけか、その敵兵の中の一人である野武士の身体の中に、自分の意識が入り込んでしまっているらしい。

味方兵が表助に攻撃するのを制しつつ、事態を把握しようとする野武士(表助)だったが、蹴り飛ばされた表助が気絶してしまう。 そこへ後助の部下が駆け寄ってくる。 しかし、表助が意識を失っていることを確認すると、兵を下げ撤退していく後助。

野武士の味方兵が表助を捕らえようとする。 すると突然、表助が起き上がる。